法学勉強日記−雑記

法学部としての勉強内容を中心に、自分の思考整理に利用しています

西洋政治思想史の外観−全体主義に向かって

ここからは全体主義を見据えながら、各思想家を整理していく。

 

まずはウェーバーである。彼はなぜキリスト教を思想的背景とする国が多い西欧世界で資本主義が成立・発展したのかを解き明かそうとした。その真髄はカルヴァン派の「予定説」を元にした天職の思想である。禁欲に、ひたすら信仰と労働に励むことが求められたことによって資本の蓄積が起こり、いつの日か利潤追求のみが目的化し、資本主義が成立したと考えた。

ウェーバーは政治的支配の形態として伝統的支配、カリスマ的支配、合法的支配の3つを挙げた。このうち、合法的支配については、多様な価値を持った人々が共存する方法としての法秩序への信仰を合理化の根拠とし、その実行のための体制として官僚制があるとした。官僚制は、多様な価値に無関心であるが、どの価値を重視するかは政治の役割であるとし、大戦直後の諸価値が葛藤しているドイツにおいては卓越した才能を持ったカリスマ的指導者による統治、指導者民主主義を理想とした。このとき指導者は人民投票によって選ばれるので、あくまで専制政治ではないとした。

 

フロイトは理性的個人という近代的人間観の解体を促した。性的な欲動であるエスが、それを制しようとする自我に勝り、社会規範や道徳を取り込んだ超自我によって抑制されると考えた。また「生の欲動」(エロス)と「死の欲動」(タナトス)を対置し、両者の凶暴性から第一次世界大戦を説明した。性悪説の立場に立っている点で、ホッブズに通ずるところがある。彼からすると人間根本はそんなにいいものではないのである。

 

ここで第一次大戦以後のドイツの動向を整理しておく。ドイツは第一次大戦において敗北し、ヴェルサイユ体制の中で経済は麻痺したが、25年ごろには大戦前の工業生産水準を回復した。その時はまだ威信を保っていた下層中産階級がその後の恐慌によって失墜し、ナチスの支持基盤に流れ込んでいくこととなる。

第一次大戦は総力戦であったが、これは戦争が国民国家同士の戦いであり、政治の道具となったことを示していた。総動員国家を肯定したのはユンガーである。彼は生活世界の戦争化という総力戦が高次の運動であり、総動員体制に寄与する国民こそ新たな英雄であると捉えた。